Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

     “春めきの中で”
 


春と言えば 日本では年度末でもあるせいか、
卒業と入学の季節であり、
退職や異動も多く、
新生活への門出の季節とも言われて久しくて。

 『でも、
  卒業式に舞い散る桜を重ねるのは
  ちょっと早くね?とか
  思ってたんだがなぁ。』

河津桜や大寒桜などなどという早咲きの別の品種だとか、
ずんと南や西の土地での話だとしても、
ソメイヨシノはどう頑張っても
三月末に“開花”するのが限度なので。
三月半ばに催される卒業式の背景へ散華を重ねるのはちょっと無理。
あれって一体いつからの傾向なのかなぁ、と
大人でもなかなか思いつかぬことへと感慨を述べていたのが、

 “こんな ちみちゃい
  小学生だってのがなぁ。”

俺としてはそっちこそ“どうだかなぁ”と思うところだがと。
やや斜面になった河原の芝草の上、
広げたレジャーシートにコロンと何とも無造作に転がって、
くうくうとうたた寝中の小さな坊やを見下ろしつつ、
厚みのある胸の内にて呟く葉柱だったりし。
相変わらずに豪雪だの爆弾低気圧だのに翻弄された、
そりゃあ大変な冬だったのが、
ほんの先月の話だったのが嘘みたいに。
三月に入るや、春はどんどんとその存在感を増してゆき。
まだまだ油断はなさいますな、
寒の戻りもありますよと言われつつ、
それでも気がつけば、お彼岸と共に陽光は濃さを増し。
房総や静岡辺りで
菜の花や水仙のお花畑に観光客がなんて話題になる中、
都内での桜も次々に蕾が膨らみ。
気温がGW並みなんてな状況も手伝ったか、
標準木がやっと“開花状態”になったころには、
あちらこちらの陽あたりのいいところが
既に三分、いやいや五分咲きくらいになってもいて。

 …なぁんてな、時候の移り変わりなんてのは
 実をいや どうでもいい話

昨日の日曜はちょっとばかり雨催いなところもあったが、
今日は朝からいいお日和で。
混み合うこと請け合いな名所にわざわざ行かずとも、
ご近所の桜がちゃんと見ごろの見事な咲きっぷりを呈しているし。
土手だの公園だの、座って観られる場所だって、
ようよう見回しゃあ結構見つかる。
何も世間に合わせた訳ではないが、
それが日本人の性なのか、
暖かで居心地のいい陽気と、
視野に収まる可憐で富貴な花の咲きようについ誘われて。
部の練習の狭間の昼食、
近所の穴場で桜を観ながら食おうと
シュガーブルーのパーカーに、
女性向けらしき 荒いニットと薄手のTシャツを重ねた風のカットソー、
ストーンウォッシュ風のデニムパンツを合わせた、
相変わらず小粋な格好の小さな軍曹殿に手を引かれ。
やって来たのが…大学の職員棟に程近い、
小さめのグラウンドに沿うた斜面の一角。
此処へと通っている葉柱でさえ気づかなんだが、
桜の木立がちょっとした並木を思わせるように植えられていて。
時期的にこうまでの奥向きは学生が不在になるがため、
あまり知られてはいなかった“穴場”なのを、
金髪の小さな鬼コーチさんは、ちゃあんとチェックしてらした。

 『そんくらいは
  葉っぱのうちからだって判ろうさ。』

入試だ合格発表だという出入りは
もっぱら表側ばかりとなるだろうから、
この時期は人の目にも留まりにくい場所。
なのでと、桜を取り沙汰する話題が出始めるのと同時、
自身でもこちらをわざわざ覗いていたらしい妖一くんが
どんなもんだいと我が手柄としての大威張りで見せてくれた
それは見事な咲きっぷりのソメイヨシノのすぐ真下。
そちらも今時、コンビニのお花見弁当とやらを買い求め、
部の備品から引っ張り出したシートを敷いての
即席花見と洒落込んだものの。
あまりの穏やかなお日和に、ついつい眠気が襲ったか、
唐揚げやら肉団子やら、インゲンマメのゴマ和えやら、
好きなものばかりを食べ散らかしたそのまんま、
くうすうと寝入ってしまった坊やだったりし。

 「………。」

シートの上へやや後ろ手に突いてる自分の手元、
大ぶりなその手と比較してもチョコンと小さなお顔は、
何の表情も浮かべぬと それは無邪気で愛らしく。
陽あたりのいいところなせいで、
その抜けるような白さが浮き上がって見えるほどに目映く。
軽やかな癖のある金髪が
陽を透かして淡い陰を落としているのが、
どんなに気が強かろうと、ご本人はまだまだ子供、
そんな風貌の可憐さを強調して何とも印象的で。
淡い陰と言えばの桜の陰が、風に揺れては躍るのがまた、
気づきもしない小さな彼へのちょっかいかけのようで。

 「……。」

うっすらと口許もゆるんでいての、
日頃の威張りくさりっぷりが微塵も伺えず、
そこもまた可愛いもんだなぁとの和みを招くものだから。
簡素な無地の練習着の上、
風があるようならばと羽織っていたパーカーに落ちる陽の濃さに
男臭い頬をほのかに照らされつつ、
何とも眼福と言わんばかりの柔らかな表情で、
大人しく寝入る坊やを見やっておれば。


  「………何かすんなら早くしろ。」
  「……っ☆」


それは小さくて、あちこちの作りも繊細な相手をのぞき込むうち、
ついつい身を乗り出す格好になっていたのは認めるが、
そこまでの下心なんて誓って無かったというに。
柔らかな頬の縁、
なめらかなまぶたのラインも伏せられたまま、
そんな偉そうなお言いようをするところが、何ともはや。(笑)

 「……お前ねぇ。」
 「何だよ、何にもしないのか?」

うっすらと片側の眸だけを開けて念を押してくるものだから。


  「〜〜〜〜〜。////」


そうともなると、
何もしないというのは彼の機嫌を損ねぬか。
………と思ってしまうのが、
こんな幼い子供相手にどんだけ気を許していることかの
随分と正直なバロメータになってたりして?(笑)
うっと二の句が継げなくなったのも一瞬のこと。
ほりほりと頬を指先で掻いてから、
やや“しょうがないなぁ”という気配を滲ませつつ。
長い腕を折り畳み、
変則の腕立て伏せのよにして身を下げた総長さんが
何をどうしたかは野暮なので
ここではナイショとしておきますがvv
そちらも気の早いBGM、
ヒバリか何かの小鳥が軽やかにさえずる 春の昼下がり。
お昼ご飯やお昼寝以上に美味しい想いをしたらしい誰か様、
午後の練習はいつになく飛ばして下さったため、
部員の皆様が大変だったという
困ったおまけ付きになるのが判るのは、
もちっと経ってからの
ことでした。(おそまつ)




    〜Fine〜  15.03.30.



  *間が空いてすいません。
   その間にも一気に季節は進んで、
   東京では各地で桜も満開だそうですね。
   でも、こうまで早いと
   お花見の計画を立ててる間もないかもで。
   関西は微妙に一足遅れるのが、
   この春だけは ちょっと嬉しい気もしております。


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